Mystleteinn

  3.槍



 一度、唇を重ね合わせると止まらなかった。
 軽く触れ、上唇を食み啄ばむようなキスを繰り返す。柔らかく弾力のある唇の形を確かめるように何度も何度もなぞると薄く口をあけた。彼の中は熱く潤っていた。舌先で歯の裏を辿ると「っん」咽喉からくぐもった声が洩れる。喰らうように奥へと舌を絡め熱を伝え合うと淫靡な水音が鼓膜をじわりじわりと痺れさせる。背中に添えられた指がひっかくように苦しさを訴えるので名残惜しく口唇を離すと彼は熱を帯びた甘い吐息を零し切なげにうつむいた。
 濡れた漆黒の瞳、淡い影を落とす伏せた睫毛、上気した頬、ぼってりと腫れた口唇、そこから覗く白練の歯と深緋の舌。艶やかにいつでも俺を魅了し堕とす魔性の性。触れたところが火傷をしたかのように熱く冷たく感覚が鋭敏にも鈍感にもなる。
 首筋から鎖骨にかけて這うようになぞりつつ、衿を割り胸から横腹に手を滑らせる。しっとりと吸い付く陶器のような肌を舐める様に撫で回し、鎖骨から胸へと触れるか触れないかの距離を緩慢に唇で降り、やがて、胸の飾りに辿り着く。片方を指先で転がし爪で優しく引っ掻き、もう一方を口に含む。舌先で舐め、指で摘むと少しずつ硬く尖り敏感になってゆく。
 ふと、顔を上げると懸命に耐える彼の姿があった。薄い膜が浮かぶ黒曜石の眸、快楽に歪む眉、噛み締めた口唇、赤い頬、どれも嗜虐をそそる要素にしかならない。前に一度、自分がどれだけ嗜欲に富んだ痴態を演じているのかを自覚させようと鏡の前でさんざん甚振ったことがあった。結局、目的は達せられることなく終わったが、それ以上に愉しめた。はたして目の前の身体はその時のもの同一だろうか。
 過敏になった胸の飾りを片方だけ咬む。
「ひぃ、、、!」
拒絶に似た甘美な悲鳴が零れ、躯が綺麗な弓なりを描く。背中に回された手が縋るように強く服を掴んだ。
「カ、カシさん――いたい…っ」
「いたい…?本当に?」
 聞き返すと彼はふい、と目を逸らし乾いた唇を舐めた。こういうときの彼は嘘を吐くから信じない。真っ赤に尖る乳首をこりこりと弄びながらふぅ、と息を吹きかけると艶めいた音と熱い吐息が髪にかかった。布越しに下肢を撫でるとゆるゆると形を変える。
「ん……っっ」
 必死になって声を洩らすまいとする姿は魅力的だが、今は快楽に溺れた音が聞きたい。
「もっと上手に鳴けるでしょ」
 白い歯を割り指先を口に突っ込み硬い歯と柔らかい舌を弄ぶ。非難に歪む顔を見てると自分の暗く浅ましい欲望に火が点いたのが分かった。彼は口端から唾液をこぼしながら俺の指を愛撫するかのように舐める。汗で湿った頬にほつれた黒髪が張り付いている。より奥へと突っ込むと咽喉が悲鳴をあげた。
「ぅぐっ――っ!」
 硬い歯が指に突き刺さる。
「噛んじゃだめだよ。痛いでしょ」
 そう言うと、彼は誰のせいだ、と涙を湛えた眼で抗議した。その射抜くような瞳にぞくぞくと背筋を快感が走りぬける。口から指を引き抜き噛みつく様に口付けた。
「ふっ…んん――はぁ、、ん」
 熱い息が頬にかかる。苦しくてお互いの呼気を飲み込み、奪うように舌を絡める。発情期のケモノのような、盛りのついた十代のような理性のない畜生だ。
 下着を剥ぎ取り、先ほどまで彼に舐めて慈しんでもらった指で熱を孕んみはじめた彼自身を直接弄ぶ。とろとろと垂れ流れる先走りを掬い取り亀頭に塗りこみ軽く上下に扱くと卑猥な水音がした。溢れ出た汁を指に絡め後孔へと宛がい、硬く窄まったままの蕾を嬲る。
「ぅん、カカシさん、、もっと…ゆっくり」
「これ以上ゆっくりしたら、死んじゃう」
 熱を持ち硬くなった下半身を太腿に押し付けると、彼は一瞬、息を呑んだ。羞恥に顔を赤く染めるとおずおずと俺のズボンのジッパーを下げ、熱くなったものを扱きはじめた。細く長い指がそろそろと這う感触に浮き上がるような快感が生じる。
「ふふふ、ありがと…」
 耳の中へ吹き込むように囁き、ぷつり、と指を入れた。
「く…ぅ」
 くぐもった呻き声。ぎゅっと肩が縮こまり指の動きが止まった。
「大丈夫だよ」
 一度指を抜き、潤滑剤を取り出し蕾と襞に垂らしてゆく。無機質な冷たさに脚がびくり、と跳ねた。宥めるようにくちゅくちゅと音を立てて塗りこんでいくと蕾がひくひくと震え始めた。浅く入り口付近に指を差し込みぐにゅぐにゅと拡げる。
「っあぁ!ん……っ」
 進入した中指が奥を引っ掻くように弄ぶと、彼の身体が仰け反り後ろが絞まった。
「…やっ、あっ…」
「ここ?」
 わざと其処を擦るようにしてゆっくりと指を引くと浅く腰が揺れ、物欲しそうにひくつき更に奥へと指を呑み込んで行く。熱く柔らかな内壁を擦りぐるり、と指で撫でまわす。
「ひっィ――だめっ」
 快楽と苦痛にのたうつ嬌声があがり脚が趾先までぴんと張る。もう一本指を増やすとびくびくっと躰が跳ねた。そのまま抉るように刺激をする。
「はぁ、はぁはぁ」
 熱に犯され焦点の合わない瞳がぼんやりとこちらを見ている。息は弾み、だらしなく零れた唾が淫靡に光る。
「そんな顔しないでよ。まだ二本目だよ」
 中に入れた指の数が分かるようにばらばらと動かす。さっと朱が差した。
「いっ、いわないで…!」
 悲鳴と同時にもう一本入れる。
「んん―――っ!」
 さすがに三本入れると狭く感じた。ぐちょぐちょと蠢動する内壁を宥めつつ奥をぐりぐりと嬲る。
 はぁはぁと肩で呼吸をしながら生理的な涙で目を腫らし恨めしそうに下から見上げられると、腰の奥にずんと響いた。彼はその扇情的な表情が征服欲をそそるか知らないのだ。助けを求めるかのように喘ぐ口から唾液に濡れた白い歯と赤い舌がちらちらと覗く。 
「もう、いいよね」
 冷静さを繕うとして笑って訊たら髪を引っ張られて怒られた。
「そんなことっ、聞くなっっ!」
 その顔が情事とかけ離れるほど可愛くてこの人が教師だったことを思い出した。
 ぐっ、と後孔に熱い肉棒を押し込む。弄んでいた指を抜き、太腿ともに腰を掴み、一気に貫いた。
「っひぃ…あああっ!!」
 真っ白な咽喉を逸らせて悲鳴をあげた。
 喰い千切る様なきつい締め付け。異物を排除するような内壁に思わず息が詰まる。苦悶の表情を浮かべる彼には申し訳ないが一旦半分ほど抜いてまた貫く短い抽挿を繰り返す。
 目尻から流れて往く幾筋もの涙を舌で舐め、頬に、唇に、耳朶に、首筋に口唇を滑らせて慰める。奥のしこりを亀頭で擦るようにして何度も嬲る。次第にぐちょぐちょと淫猥な水音が響きわたった。
 苦痛と快楽の狭間に漂っていた彼は緩やかに腰を揺らしはじめる。引こうとすれば絡みつき吸い付き奥へと誘う。蠢動に逆らい、入口ぎりぎりまで引き勢い良く奥まで捻じ込む。そのまま膝裏に手をあて胸につく程折り曲げると、根元まで呑込んだ。腹に当たる彼の性器はだらだらと蜜が溢れ、敷布を握る指は快感に震えている。
「ほんと、淫乱ですよね、センセ」
 自分の口元が歪むのを止められない。彼は怯えた眸で違う、と訴えようとするが、口から出るのは意味を成さない嬌声だった。
 片足を肩へと担ぎ、熱い粘膜を抉るように激しく穿つ。縋るように伸ばされた彼の手に指を絡めていると指先がじんじんと痺れが伝染してどこからどこまでが自分の感覚か分からなくなる。犬畜生のように腰をただただ振り続けて、さらなる快感を求めた。
「っあ、っぁああっ!!」
 彼は一際強く手を握り締めると、掠れた悲鳴と白い欲望を飛び散らせた。俺は小さく呻くと熱く蕩けるような内壁の貪欲な収縮に募る射精感に逆らうことなく最奥に白濁を吐き出した。
 握り締めた手はどこまでも優しく、冷たかった。



4.矢