カルニカーラのヴィシュカンダ
1.ヴァーマ・デーヴァ
ジリリリリリリリリリリリリ!
それは突然鳴り響き、泥沼の闇から俺を救い上げた。
最初に目に入ったのは色褪せた天井だった。どこか懐かしく見覚えのある天井。少し黄ばみ所々傷んでいるクロスはとても見慣れたもののはずなのだが何処なのか分からない。それともよくある天井だから見たことがあると思っているだけだろうか。それならそのよく似た天井を何処で見たのだろう。いつ、どこで、どうして?
分からない。
何も思い出せない。
頭の中に何も入ってない。空っぽだ。真っ白だ。何もない。何故だ?
はたけカカシ
突然、脳裏に浮んだことば。
なんのことだろう。何を指しているのか、何を意味しているのか。わからない。わからない!
いや。
ちがう。
はたけカカシは名前だ。
誰の?
はたけカカシとは誰だ?
俺だ。
はたけカカシは俺だ。
俺がはたけカカシだ!
そして、ここは俺の部屋だ。そう、俺の部屋だ。あの天井は俺が毎日みている天井だ。
そんなことを考えている間もジリリリリリ!とけたたましく叫び続けていた。さっきまで気にならなかったが一度意識するとその音はとても不快に思われた。鼓膜を激しく打つ振動に痛みすら感じる。からっぽの頭に音が反響する。
まっすぐ進み、飛び跳ね、ひっくり返り、逆走する。そうと思えば突然折れ曲がり、ぶつかり、細かく分裂し、再び直進する。引っ掻き、抉り、喰い込み、毟り取る。
散り散りになった音が頭の中に溢れる。
溺れそうだ。息が詰まる。苦しい。
両手で耳を塞ぎ周りに眼を走らせる。ベッドの傍のチェストに目覚まし時計が置いてあった。責め立てるかのように不快に鳴り響く音はそこから発せられていた。
俺は手を伸ばしスイッチを止めた。ふっ、と一瞬で悪魔の嘲笑が消える。だが、俺の頭の中ではまだあの音が鳴り響いていた。音の破片が脳内に降り注ぎ甲高い音を立てる。理不尽な痛みが治まるのをただひたすら耐える。
目覚ましの横に一通の封筒が置いてあった。
何の変哲もない白い封筒であるが宛名も差出名もない。なんだろう、と思いながら封筒を手に取ってみた。
少し分厚く重すぎることはないが軽くもない。表面を撫でてみるが不自然な感触や凹凸はなく臭いもしない。恐らくただの手紙だろう。そう思っているのだがなんとなくイヤな予感がするので開けたくない。しかしその一方でこの手紙を読まなくてはならない、という指令が脳から発令されている気もする。
カーテンを開けて封筒を透かしてみる。黒い影が連なっており文章のように見えた。やはり中には手紙が入っている。
俺は覚悟を決めると封を切り中の手紙を取り出した。
2.ガーヤトリー