ねぇ、そこのあなた、そうあなたよ。こっちに来てちょっとわたくしとお話ししましょ。お茶も用意してあるのもちろんスコーンもあるわよ。
ねぇ、あなたはウカレウサギと帽子屋とネムリネズミと一緒にお茶をしたことあって?わたくしは幼い頃より夢ばかり追ってる空想家でね。よく姉さんに呆れられたわ。でもこれから話すことは本当のことなのよ。
もちろんあなたに信じてもらおうと思ってるわけじゃないわ。それにあのときのわたくしはひどく狂ってたからもしかしたら本当は夢だったかもしれないわね。
素敵なお家の前の木陰にテーブルを出ていてね、ウカレウサギと帽子屋がお茶を飲んでいたの。二人の間にはネムリネズミがいたんだけど、座ったままでぐっすりねむっていて、隣の二人はネムリネズミをクッション代わりにして、頭越しにおしゃべりしていたの。
わたくしが二人に近づくとウカレウサギはにっこり笑って「すてきなお嬢さん、こちらに来て私たちといっしょにお茶をしませんか」と誘ってくださったわ。でも隣の(正確には隣の隣だけど)帽子屋がじとり、とわたくしの方を見てね「来るな〜、来るな〜」て視線で言うの。わたくし初めて目は口ほどにものを言う、て言葉を理解した気がしたわ。
三人はテーブルが大きいにもかかわらずかたっぽの端によりかたまっていてね。不思議だなと思いながらウカレウサギの隣に座ろうとしたの。だってそのウカレウサギったら可愛いことこの上ないのよ!
タレ耳の黒いウサギさんで、顔の真ん中に傷が走ってるんだけどすごいくりくりした黒い瞳でね、わたくしダイナ(これはわたくしが飼ってた猫のことね)といい勝負、いえ、もしかしたらダイナの負けかも知れないわ、それくらい可愛いタレ耳の毛並みの艶やかな黒ウサギさんなの。
あなたも分かるでしょ、そんな可愛い動物がいたら触ってみたいっていう衝動が。
だからウカレウサギの隣に座ろうとしたのだけど帽子屋がね、この男はとても胡散臭い感じがする人だったわ、黒いシルクハットの下から見える髪は銀色で瞳は青と赤のオッドアイ、おまけに右目には縦に大きな傷が走っていたの。その帽子屋が「お嬢さん、そこはあなたの席ではありませんよ」て言うの。
わたくしは「じゃあ誰の席なのよ」と言い返したのだけど狂った帽子屋ですからね、わたくしは大人しく彼らの向かい側、ウカレウサギの向かい側にある肘掛いすに座ったわ。
そこに座ったことで気がついたのだけどこのネムリネズミ、目を開けながら寝ていたの。わたくし「わぁ!」とびっくりしたわ。二人は何を驚いているの、とわたくしを見たわ。だからわたくしは「このネムリネズミは目を開けながら寝るのね!」というと帽子屋が「目を開けながら寝るだなんていくらネムリネズミでも無理だよ」と言ったの。
「でも彼は目を開けているわ」とわたくしは言ったの。
そうするとウカレウサギが「目は瞑ってますよ。あなたの言ってる目は瞼ではありませんか?」と言ったの。だからわたくしはじーっっとネムリネズミの顔を見たの。そしたら、ぱちっと目が開いていたのにさらに開いたのよ!
もうびっくりしたのなんのって、びっくりしたに決まってるわ。
帽子屋はにやりと笑って「なかなかリアルでしょ」と言ってお茶を一口飲んだわ。
そう、ネムリネズミの開いていた目は瞼に描かれた絵だったのよ。もう本当に上手でね、だれが見たって本物の目だと思うわ。だってネムリネズミの目も同じ目だったもの。
「何ですか、あなた、人の顔をじろじろ見て」ネムリネズミは開口一番にこう言ったわ。だからわたくしは「素敵な目をお持ちですね」って精一杯彼を褒めたの。そしたら彼は怪訝な顔をしたのだけど、すぐに大きなあくびをしてね(その瞬間に帽子屋がお皿に溜まっていたパン屑をゴミ箱にでも入れるようにその口の中に流し込んだわ)また眠ってしまったの。
「ネムリネズミは本当にいつでも寝るのね」とわたくしが言うと「ヤマトさんが起きてるところって確かにあんまり見たことないなぁ」とウカレウサギが言ったわ(ネムリネズミの名前はヤマトっていうのね)。すると帽子屋が「こいつが起きてても意味はないでしょ」と言ったわ。
「じゃあ、あなたが起きてる意味は何?」とわたくしは帽子屋にたずねたわ。帽子屋はニィと笑って「あなたに教える意味も義務も理由もないね」と言ったの。ほんとうに腹の立つ男!わたくしはもう一言何か言わないと気が収まらなくてね、「ちょっとあなたさっきから――」と言おうとした瞬間、帽子屋の顔が悲壮な(あの傲慢な態度の帽子屋がよ)表情になったの。
「イルカさん、それ俺のタルト!」と帽子屋は慌てて叫んだの(ここでわたくしはウカレウサギがイルカという名前だと知ったわ)。
「カカシさん、いつまでも食べないからてっきりいらないのかと」とウカレウサギはもぐもぐと口の中でブラックベリーのタルトを咀嚼しながら言ったわ。口の周りに赤いソースがついていて何だか微笑ましかったわ。
微妙に肩が落ちてる帽子屋にウカレウサギは「おいしゅうございました」と言って目を細めたの。
その微笑が、もうなんと言ったらいいか、とても蠱惑的、妖艶な笑みで、わたくしは思わずどきり、としちゃったわ。5月だったけどきっとあのウカレウサギはまだうかれ終わってなかったのね。そうじゃなきゃあんなフェロモンがでるような微笑ができるはずがないわ!
そうそう、わたくしがどきり、としたのにはもうひとつ理由がもうひとつあるの。ウカレウサギが帽子屋に感謝いや、挑発(?)的な微笑を浮かべた瞬間、帽子屋がウカレウサギの胸倉を掴んで思いっきり自分の方に引き寄せたの。
その後どうなったかって?
正確なことはわたくしにも分からないの。
だってあの帽子屋ったら二人の顔をあのシルクハットで隠したのよ。
わたくしはただ呆然と目の前のシルクハットを見るしかなかったわ。
だけど、耳から聞こえてくる音はとてもお茶会とはかけ離れた音でね。その何て言ったらいいのかしら、くちゃくちゃ、違うわね、ぺちゃ、ぴちゃ、うん…そうそんな感じの粘質系の水音が昼下がりの午後のお茶会に響いていたの。わたくし顔が赤くなる、熱くなる、頬が染まるて体験はじめてしたわ。
シルクハットから顔をのぞかせた帽子屋は笑ってわたくしに向かってこう言ったの。「これが俺の起きてる意味、てやつ?」
ほんの少しだけ見えたウカレウサギの顔は口の周りのソースがなくなっていたけど唇が真っ赤に染まっていたわ。
ちょっと、あなた、どうしたの?まぁ、むせたのね。落ち着いてもっとゆっくり飲めばいいのに。お代わりはいくらでもあるのよ。それにカスタードパイとチェリー・タルトがもうすぐ出来上がるの。
え?もう行かれるの?だってパイとタルトが…。そう、お急ぎのところ呼び止めてしまってごめんなさいね。
機会があったら遊びに来てくださいね。お待ちしているわ。
不思議の国のアリスをパロってみました。
2007/06/11
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イルカはふと顔を上げると、少し離れた木の枝の上に公爵夫人の家で見たあのチェシャネコがいることに気がついたんだ。(ネコっていっても人間の姿にネコ耳と尻尾が生えてる奇妙奇天烈な格好なんだけどね)
ネコは怠惰そうに片膝を立てその上に顔を乗せ、もう一方の足はぶらぶらと揺らしていね、やっぱりにんまり笑っているんだ。人好きなのかな、とイルカは思ったけれど、やっぱり爪は伸びているし、顔に傷はあるし、何より赤と青のオッドアイが神秘的でね。これはなるべく丁寧にしておくに越したことはないと思ったんだ。
「チェシャ州のおねこさま」イルカはおずおずと切り出した。こんな呼び方で気に入ってもらえたか、ぜんぜん分からないけどね。取り敢えず、相手はただ前よりもにんまりして目を細めただけだったから「これはいけるかな」とイルカは思って、先を続けたんだ。
「あのー、おれ、ここから先どの道を行けばいいか、教えていただきたいんですけど」
「そりゃ、あんたがどこに行きたいかによるよ」とネコは答えた。
「べつにどこでもいいんですけど――」
「じゃあ、どの道でもいいでしょ」
「――どこかに行きつくならね」とイルカが言い添えると、ネコはネコで
「そりゃ行き着くに決まってるでしょ。ちゃんと歩き続けていきさえすればね」
そんなの当たり前じゃねーか、とイルカは思い、今度は他の事を聞いてみることにした。
「このへんには、どんな人が住んでるんですか?」
「あっちには」とネコは右手で指し示し、「帽子屋が住んでる。それからあっちには」と、今度は左手で、「ウカレウサギが住んでるよ。どっちでも好きな方をたずねてごらん。どっちも狂ってる」
「狂ってる?おれ、狂った人のとこなんか行きたくないんだけど」とイルカ。
「そんなことできるはずないでしょ。このへんやつらは、だれもがみんな狂ってるんだよ。おれも狂ってるし、あんたも狂ってる」
「おれが狂ってるだなんて、何で分かるんですか?」
「何言ってるの、狂ってるに決まってるじゃない。じゃなきゃ、ここまで来られるはずがないでしょ」
そんな理由認められるはずがない、とイルカは思ったけど、話がややこしくなりそうなので
「じゃあ、どうしてあなたは自分が狂ってるて分かるのですか?」
「ふふふ。いい?まず、犬は狂っていない。これは異議なしでしょ?」
「そうですね」とイルカ。
「よし。じゃあ」ネコは続けて「御存知のとおり、犬は怒ると呻るし、嬉しいと尻尾を振る。さて、おれといえば、嬉しいと呻るし、怒ると尻尾を振る。だから、おれは狂ってるのよ」
「それはのどをごろごろ鳴らしてるだけで、呻るとは言わないと思いますけど」
「どっちでも構わないよ」ネコはそう言うと
「そうだ、あんたは今日、女王様とクロケーをするの?」
「そりゃ、できるもんならやってみたいけど、お招きされてないし」
「じゃ、そのとき会いましょ」ネコはそう言うと、すうっと消えうせてしまった。
イルカはたいして驚かなかった。もうおかしな出来事にはいいかげん慣れっこになっていたからね。今しがたまでネコのいたところを見つめていると、そこへ出し抜けにまたネコがあらわれた。
「そうそう、あんた名前は?」とネコ。
「イルカだけど」イルカはそれが何か?と首をかしげた。ネコが戻ってきたことは別に不思議でもなんでもないけど、どうして自分の名前を聞かれるのかが分からない。
「面白い名前だね」そう言うとネコは枝からすとん、と降りると「おれはカカシ」とイルカのほうに近づいてきた。そして「よろしくね」とにんまり笑ってイルカの唇にキスすると瞬く間に消えうせた。
イルカは自分の唇に指を当てて「今のはネコにキスされた方にカウントするのかな、それとも男にキスされた方にカウントするのかな」と考えたけどね、「どっちでもいいか」と考えることを放棄して、ウカレウサギが住んでいると教わった方に向かって歩き出した。
上のとは別で。アリスその弐。けっこう原作に忠実。
2007/06/16
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身体の芯から凍らせるような冷気が二人の身を包んでいた。
じっとしていても苛立ちが募るような熱く蒸した空気は北風に冷やされ今では濃い霧となっている。手を伸ばしてもその指先すら白い霧にまぎれて見えなくなってしまう。
カカシは隣にいるはずのイルカの方を向いた。
「見事な霧ですね」
顔は霧ではっきりとしない。ただ頭上に結ばれた黒い髪が肯くように揺れるのが見えた。
「そうですね。この谷は霧の発生には好条件ですから」
顔は見えないがカカシには何となくイルカが困った表情で笑っているのだと想像できた。
まったくの無風状態で霧は一向に晴れそうにない。伸ばした指先は全く見えることなく、霧はどんどん濃くなっているようだった。
「先生、俺の顔見えます?」
隣を向くとかろうじて黒い髪が見えるぐらいだった。確実に霧は濃くなっている。
「カカシ先生は?」
「これだけ濃いとさすがにね」
と言って肩をすくめた。
イルカはそうですね、と言うと口を閉ざした。
カカシは目を閉じ他に生き物がいないか気配を探った。だが、何も感じられなかった。暫くすると緩やかな睡魔がやってきた。
カカシはまどろみを弄んだ。ふわふわとした温かく柔らかな心地に全身が弛緩していくようだった。
しかし、何か強い力で揺さぶられて目が覚めた。
「カカシ先生」
声が聞こえて、自分を起こしたのはイルカだと気がついた。
「霧が晴れてきました」
薄ぼんやりとした明かりの中にイルカの手が見えた。その指が指す方角にはぼうっと薄く霞んでいる美しくなだらかな曲線を描いた山が見えた。
「んじゃ、先生、行こうか」
カカシは立ち上がるとイルカに手を差し出した。しかしイルカはその手を取らず、ふるふると首を振るだけだ。
「ごめんなさい、俺はいけません」
「は?」
「カカシ先生、ひとりでいってください」
「何言ってるの、先生」
カカシは眉を顰めた。その顔には苛立ちが混ざっているようにも見えた。
「ここの霧が晴れることは滅多にないんですよ、はやくいってください」
「あんた一人残して行けるはずないじゃない」
「カカシ先生…」
「あんた俺に言ったじゃないか、人は独りでは生きていけないって!」
「そうですよ。でも、だから、人は死ぬその瞬間まで独りなんです」
イルカは凛とした表情で言った。芯の強い黒い瞳がカカシをじっと見ていた。その間に折角晴れた霧がまた濃くなってきた。
「カカシ先生、はやく」
イルカは切羽詰った表情で霧の薄い方角を必死になって指差す。だがカカシの足は動かなかった。
「あんたがいなきゃ…俺は」
カカシはそう言うとイルカの腕を掴み立ち上がらせようとした。しかし掴んだその腕はあっという間に白い霧となり霧散した。
「!!」
「俺はもう、駄目なんです。だから…」
カカシは自分の手を見た。手はいつもと変わりなく目の前にあった。
では何故目の前のイルカの腕がつかめないのだ。
一体これはどういうことだ、幻術なのか、いつから俺は…。ぐるぐると思考が渦を巻きはじめる。
カカシは走り出した。
イルカが指し示した方向へ、あの霞んだ山が見えた方角へと走り続けた。
すると自分の名を呼ぶ声が聞こえた。声はカカシが走っている方向から聞こえているようだった。
後ろは振り向かなかった。ただ前だけを見て走った。
次第に声ははっきりとして霧も晴れてゆく。ぼんやりとした人影が見えたと思った次の瞬間、影ははっきりとした像を結んだ。
「カカシ先生っ!!」
目の前に現れたのはイルカだった。
「イルカ先生…なんでここに?」
「おめぇを探しにきたんだよ」
イルカが答えるより先に後にいたアスマが返した。
「アスマ…なんでお前まで」
「どっかの誰かが幻谷に入り込んだって知らせを五代目が受けてな、運悪く俺とこいつが派遣されたんだよ」
アスマは軽く紫煙を吐き出すと、厭な物でも見るかのようにカカシの後ろに広がる濃い霧を見た。
「あの谷の霧は幻を見せる。一度霧が出たらなかなか晴れないんだが、カカシ、おめぇ相変わらず悪運が強ぇな」
がははと笑いカカシの背中を二、三度叩くと、一応医療班呼んでくるわ、と言って踵を返した。
「…幻覚?あれが?」
カカシはつい今しがた間で一緒にいたイルカについて考えた。確かに霧ではっきりとした顔は見えなかったが最後に霧が晴れてきたときに見えたあの凛然とした姿は本当に本人だと思ったのだが…あれすら幻なのか。
「カカシ先生、本当に大丈夫ですか?」
隣を見るとイルカが心配そうな顔で覗き込んでいた。黒い瞳にはどこかぼんやりとした自分の姿が写っていた。
ふと、カカシはあのイルカの言葉を思い出した。
「先生、あんたは独りで死ぬの?」
「え?」
「ねぇ、先生。あんたは独りで死ぬの?」
「カカシ先生?」
「答えてよ、先生」
イルカは困惑した表情を見せたがカカシの常ならざる態度に何かを感じ、考えはじめた。
「……きっと死ぬときは一人だと思います」
イルカの口から出た言葉にカカシは顔を歪めた。それ以上聞きたくなくてもう何も言わなくていい、と言おうとしたがそれより早くイルカが口を開いた。
「でも独りだと実感できるのは自分以外の人がいるから…誰よりも愛する人がいるから自分がいるのだと認識できるんだと思います。死は怖いけど死ぬ前に自分に気づけたこと、あなたを愛せたことはきっと何よりも嬉しい」
「先生…」
「だから、一緒に生きてください」
「うん。ごめん、先生。そうだね、そうだよね」
カカシはそう言うとイルカを抱きしめた。伝わる温もりから残酷なまでの孤独と幸福を感じ、自分がここにいることを実感した。
他を認識して自己を認識する。たぶんそいういう話。愛は関係ない。
2007/07/08
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ゴーンリゴーンリンゴーン
教会の鐘が鳴る。幾重にも重なった音の波が澄んだ青空に広がる。
大祭壇の前にひとりの花嫁が立っている。荘厳な装飾が施された室内、高い天井に極色彩のステンドグラス。そこから入る光は花嫁の純白のドレスを神々しく美しく照らしている。
花嫁は俯き色鮮やかなブーケを見ていおり、その表情は白いヴェールに隠されていて窺い知れない。
鐘が鳴り止み教会内に静寂が戻った。
瞬間、花嫁は駆け出した。
ブーケを放り投げ幾重にも重なったドレスの裾を持ち白いヴァージンロードを入り口へと向かって走り出す。
花嫁は入り口の重い扉を押し開けた。
そして…
「って、やってられっかぁああああ!!!!」
と叫び、折り重なったヴェールを剥ぎ取りその地面に投げつけた。
「ヴェールを捨てるんじゃなぁぁあいっっ!!!」
という罵声とバゴンッという音ともに花嫁はその場に突っ伏した。
後頭部を押さえ苦痛に呻く花嫁。
その後ろには忍服を着た黒髪の女が立っていた。
「っっ!!何すんですか紅さんっ!!」
花嫁は目に涙を浮かべ殴られた頭を押さえながら振り向いた。その顔には薄っすら一文字の疵があった。
「それはこっちのセリフよ!あんたこのドレスがいくらすんのか分かってんのっ!!!?」
「知りませんし、知りたくもないですよっ!!んなことより何で俺がこんな格好しなくっちゃいけないんですか!!!??」
「任務だからに決まってんでしょうが!!」
「だったら紅さんが着ればいいじゃないですかっ!!」
「着れるもんだったら最初っから着てるわよっ!!」
と叫び紅は花嫁を締め上げた。顔面蒼白の花嫁。
「うっ、すいません…」
「分かればよろしい」
紅はそう言うと手を離した。
「でも、何で俺なんですか…」
「担当者が別件で動けないのよ。他の子じゃそのドレス小さすぎてね…」
「変化すればいいじゃないですか」
「なんで女がドレス着るために変化しなくちゃいけないのかしらぁあ??」
「すいません、なんでもないです、ごめんなさい、俺が悪かったです」
花嫁は紅から目線を外しがたがたぶるぶる震えた。
「別にいいじゃない、減るもんじゃないでしょ。あんた細いし小さいし童顔だし」
「俺、紅さんがそんな風に思ってたなんて知りたくなかった…」
「思ってたじゃなくて事実でしょ」
「ぎゃー!!聞きたくないっ」
花嫁は耳を両手で押さえ首を振る。
「はぁ〜、それより遅いわねぇ新郎」
「新郎言わないで下さい!それじゃ俺が花嫁みたいじゃないですか!!」
「だってそうでしょ」
「違うーっっ!!」
「あはは、あんた相変わらず面白いわねぇ〜」
紅はからからと笑い、花嫁はぜぇぜぇと肩で息をする。
「任地が国外でよかった…国内だったら俺、もう生きていけねえ…」
花嫁はしゃがみ込み遠い目をした。そんな花嫁に紅は肩に手を乗せ菩薩ような微笑を浮かべて
「心配しなくても大丈夫よ」
と声をかけた。花嫁の目に感動の涙が浮かぶ。
「紅さん…!」
「すごく似合ってるから!」
「て、違うーーっっ!!!」
花嫁は絶望からその場を駆け出した。
が、慣れぬドレスの裾を踏みこけそうになった瞬間その身体は突然現れた銀髪の男に抱き留められた。
「ったた、…あ。スミマセン!」
そう言って花嫁が顔を上げると、抱きとめた男はにこりと笑って
「迎えに来たよ、俺の花嫁さん」
「は?」
「カカシっ!その子を離しなさいっ!!!」
紅が血相を変えて花嫁とカカシと呼ばれた男を放そうとするが
「やーだよ、何で折角の花嫁を手放さなきゃいけないのよ」
とカカシは言って花嫁を抱き上げ後ろへ遠退いた。「新郎ってカカシなの!!!?聞いてないわっ!」と悲壮な顔で崩れ落ちる紅を目の端でとめながら困惑の表情の花嫁は自分を軽々と抱き上げる男に恐る恐る告げた。
「あの〜、俺、男ですよ…?」
するとカカシは極上の微笑を浮かべて
「知ってるよ。うみのイルカくん」
と言いイルカに熱い接吻をした。
うみのイルカ、16歳、不幸のはじまりである。
続きません。
2007/07/18
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俺は小さい頃から人には見えていないものが見える。
人間とそうでないものの区別は、他人が見えているか見えてないかなのだが、見えないものまで見えている俺には難しいことだった。
それでもあの人を見た瞬間に、これは見えていない方の人だ、と感じた。
「お父さん!外に白いお化けがいるっ!!」
俺は居間で寝転がり久しぶりの休日を自堕落に過ごしている父親に飛びついてそう報告した。父は笑いながら新聞を広げ
「イルカ〜お昼はお化けは休業してるはずだぞ〜」
と言い、俺の言葉は耳から左へと抜けていった。
父は俺が見えないはずのものが見えている、という理解と認識があったのでそれによる虐待は受けたことがないが、やはり相互理解が円滑だったとは思えない。
更に言えば父は繊細と言うよりは鈍感な人だったので(息子の俺がこんなことを言うのはどうかと思うが父の友人の話を聞いていてもこのような印象しか持たないのだから恐らくこれは真実だろう)見えないものに対する恐怖はあまり持っていないようだった。
「違うよ!いるって!!庭のむこうからじーってこっち見てるもん」
「おおー、そのお化けは働き者だなぁ〜」
「だーかーらー、いるんだって!」
と言って俺は父の腕を引っ張り庭に連れて行こうとしたが、休日の父親を動かすのは子どもの俺には大変な労力が必要だった。テコの原理も何も効かないのだから。結局ぎゃーぎゃーと喚く俺に気がついた母親が父に「子どもの相手もできないなんて…」と哀れむというか蔑んだ顔をしてくれたおかげで(?)父を縁側に引っ張り出すことに成功した。
「ほら、あれあれ」
「んー、どこだ?」
さもめんどくさそうに頭を掻き毟っていた父親は今考えてもダメオヤジの鏡だと思う。
「あれだって!!」
そう言って指を指した瞬間、父の顔が蒼白になった。
「はっはたけ上忍っっっ!!!!ぎゃーっ!すみません!!うちの息子が失礼を!!!あ。いや、あれは決してはたけ上忍のことを言っていたのではなくて……。イルカ、お化けと人間を間違えるんじゃないって言ってるだろう」
悲鳴と言うか絶叫を上げた父は自ら墓穴を掘り俺の両肩を掴むと引き攣った顔で説教をしていたが俺は俺であの人が見えている方の人つまり、生きた人間だと言うことが信じられなくてただただ呆然とするしかなかった。
「いや、うみの、別にいんだけど、俺気にしてないし」
はたけ上忍と呼ばれた人は確かに父に向かって話しかけると
「(ひぃ!)スイマセンっ!ほんとすんませんっ!!」
普通の人である父が謝っていた。それを見て俺は本当にあの人が生きた人間なのかもしれないと思い至った。
「お父さん、あの人お化けじゃないの?」
「お化けじゃない。お化けじゃない。だいたい足があるだろうが」
ほれ、見ろと指差した方を見ると生垣の隙間から確かに人の足が見えた。
「でも、お化けにも足あるよ」
と反論すると
「う。父さん、お化けにあったことないからな…」
と言って顎に手を当てて考えていた。するとはたけ上忍が
「うみのの息子くんは霊感があるの?」
と尋ねた。
「はぁ、まぁ…何と言うか、嫁に似たみたいで」
「なるほど」
「あ!ていうか上忍そんなところじゃあれなんでどうぞ、入ってください!玄関こっちです!」
と言って縁側に置いてあったサンダルを履いて玄関に案内した。
「いやいや、ただの散歩の途中だし、つか君も上忍なんだからそんな畏まらなくても」
「いやいや、俺とはたけ上忍じゃ経験値が違いすぎますよー」
「そうかな?」
「そうですよー」
ささっどーぞお上がりください、と言った表情で上忍を家に招いた。たぶん父のこういう強引というかマイペースなところが長所だったんだと思う。
「はじめまして。おじさんははたけサクモ、お父さんと同じ上忍だよ」
俺が白いお化けだと思っていた人はそう言って俺に握手を求めた。その手を見て、父親の顔を見ると挨拶しなさい、と言っていたので
「うみのイルカです」
と言って差し出された手を握った。
その手は冷たくも熱くもなくただただ生ぬるい感じがした。
「おじさん、ほんとに…」
「イルカ」
人間ですか、と続く言葉は父親によって遮られた。
「あはは、いいよいいよ」
上忍は笑って父を宥めた。
「ねぇイルカくん。どうしておじさんがお化けだと思ったのか聞いてもいいかい?」
俺は父の方を見たが、父は難しそうな顔をしていたがこくり、と肯いた。俺は許しが出たと思って答えた。
「だって、ほら、あんなに…」
そう言って俺が指を指すとはたけ上忍はその方向を向いた。
瞬間、その顔は青白く引き攣っていた。しかしその瞳は深遠の淵のような静けさがあって俺はやっぱりこの人は人ではないと感じた。
はたけサクモは私の中では謎。たぶん一級品。
2007/07/22
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頭の中で誰かが暴れているようだ。
頭が痛いのは頭の中に悪魔が入り込んで暴れているからだ、て言ってたな。誰だったかな、両親か友人か噂かテレビか・・・なんにしても今の俺にとっちゃ適切な表現だ。癇癪を起こして泣き喚く子供のように、激しく暴れて周りにあるものを全て投げつけているんだ。金槌で打ち付けたり、鉈で叩いたり、錐で突き刺したり、暴れて、破壊している。脳みそはきっと背骨が突き刺さってぐちゃぐちゃになってる。頭蓋骨は軋んで今にも割れそうだ。悪魔は呼吸するたびにより凶暴になり、その亀裂は大きくなる。ひどく不快で苛立つ。そのうち穴が開いてなかみがとびだしてくるんじゃないだろうか。耳の奥がきりきりと痛むし、目蓋が重くて目もかすむ。眼球の裏が冷たくって神経がちぎれる気がする。気を緩めたら目玉が落ちるかもしれない。
落ちた目玉を誰か拾ってくれるだろうか。
それとも潰してくれるだろうか。
「先生、何やってるの」
くもの巣のような亀裂が一瞬に粉々に砕け散る。ぐらぐらに揺らぐ世界を貫いた声の正体はカカシさんだった。
「見て分かりませんか独りジェンガです」
俺は彼の顔を見上げて、自分の目の前に立つ木製の塔から一本抜いた。塔はふらふらと揺れながらも倒れることなく建っている。抜いたピースを静かに一番上に置く。
タワーはピースを拒絶するかのように震える。
「楽しいですか?」
彼はジェンガを挟んで向かい側に座った。彼の顔の半分と不安定な塔が重なる。
「楽しくないとダメなんですか?」
俺はまた一本抜く。ああ、だめだ手が震える。うまく抜けない。吼え立て喚き散らす声が反響して二重三重に広がる。噛み付き食い破られ引き裂かれる。
「んー、一人でやっても楽しくないと思うんですけど」
穴だらけのタワーの向こう側には彼がいる。いびつに歪んだ塔の不規則に並ぶ窓からスモークブルーの瞳がじっとこちらを見ている。その視線は何を言っている。何を言おうとしている。違う。嗚呼、何を言っても無駄なんだ。
だってもう、俺はタワーを築けない。
塔は天に届くことはない。
雷が落ちるわけではない。強風が吹き崩すわけではない。大地が割れて沈むわけではない。水が押し流すわけではない。
ただその存在の限界を超えて存在することができなくて崩壊する。
ガシャン
悪魔で針のような爪を立てキィキィを不快な不協和音を作り不気味で神経を焼ききるような声で俺を嗤う。
無残に崩れた塔の向こう側には満面の笑みで俺を見つめる彼がいた。
たぶんこんな感じの二人が好き。(たぶん、ばっかりやん)
2007/07/31