Omnis habet sua dona dies.
ココアブラウンの絨毯に黒檀色の髪が散らばっている。背部は炬燵から出ておりとても暖を取っているようには見えない。黒檀の髪の持ち主は肘を曲げ顔を伏せていてその表情はわからない。山鳩色の衿から覗く首筋は白く後れ毛の黒檀と艶やかなコントラストをつくりだしている。それは見ている者に淫靡な想像させるのと同時に清廉と禁欲でその身を縛り付ける。
カカシは目の前に広がる光景に溜息をつくとコンビニの袋を炬燵机に置き黒檀髪の主に近づいた。
「イルカ」
カカシの手がイルカと呼ばれた男の肩を揺する。
「…ん」
しかしイルカは起きない。再度カカシが揺する。
「起きて、イルカ」
「う、ん」
イルカはまだ起きない。だが、その意識は確実に覚醒に向かっている。
「起きないと顔面低温火傷になるよ」
カカシの適切だがどこかズレている呼びかけはイルカの覚醒を手助けするものにはならなかった。
「……アイス、買ってきたけど」
「たべる」
今度の呼びかけには瞬時に反応した。
イルカは上体を起こしたが髪の間から見える漆黒の瞳は虚ろで未だ夢の中だとわかる。ゆかたは激しく着崩れ鎖骨が露になっている。カカシは再び溜息をつくとコートを脱ぎ炬燵に入った。机に置いた袋から中身を取り出す。酎ハイが3本とバーガンデーレッドのカップが2つ。
「チョコとナッツどっち食べるの?」
「……キャラメル」
蛍光灯が眩しいのか目を細めながらイルカが答える。
「は?」
「キャラメル」
酎ハイのプルタブを開けようとしていた手が止まった。
「…あの、俺、チョコとナッツしか買って来てないよ」
するとイルカはキッチンの方を指差した。冷蔵庫にはいっている、という意味なのだろう。はいはい、とカカシは立ち上がった。
テレビでは最近、額の面積が広くなったと専ら噂のアナウンサーが熱く時事問題について説明しているがほとんど聞き流している。カカシはゆめうつつでテレビを見ながらアイスを食べているイルカをじっと見ていた。
カップの中身は半分に減っている。周りから少しずつ溶けはじめている美しいアッシュローズ色のアイスと底にいくにつれ現れる艶やかなキャラメルソースが魅惑的なマーブリング模様を描いている。それを光沢のある銀のスープで掬い口の中に運ぶ。ありふれた食という行為なのに目の前で行われているものはひどく妖しく淫らで誘っているようである。
「ねえ、それ美味しい?」
テレビを見ていたイルカがカカシの方をむいた。やはりその瞳はぼんやりしている。白い咽喉がごくり、と動いた。咀嚼されたアイスは食道を通り胃、小腸へと運ばれながら身体に吸収されていく、その一連の流れが荒々しい性交のようだとカカシは考えていた。じっと見ているカカシを不思議に思ったのかイルカは食べてみる?とカップをカカシの前に置いた。
「え。いいよ、いいよ」
「そう?美味しいのに…」
イルカはもったいないといった表情でカップを手元に戻した。そしてまた一口掬い、口に運ぶ。じっくりとその甘さを味わっていたのだが何か思いついたのか人差指をカップに突っ込んだ。
「ちょ、イルカ!?」
驚くカカシの前に麗しのキャラメルアイスと光り輝くソースが絡んだアイスが盛られた指が差し出される。
「ほら」
イルカは小悪魔的な笑みを浮べている。体温で少しずつ溶けはじめたアイスが、つ、と手の甲へ向けて流れ落ちた。
それが合図となったかのようにカカシはその指を口に咥えた。
滑らかなキャラメルアイスクリームと濃厚でねっとりとしたキャラメルソースが一瞬で口の中に広がる。もともと甘いものが得意でないカカシにはこの味は強烈だった。濃密なキャラメルが激しい渇きを感じさせる。ちらり、とイルカを見ると目が合った。カカシは目を合わせたまま指を舐め続けた。
指の付け根から先にかけてゆっくりと舌を這わせ、爪の形を確かめるように丹念に指先を舐める。ちゅ、と音を立て軽く吸い、たまに爪や指の腹を甘噛みする。それはまるで閨事を彷彿とさせるがイルカは変らず妖艶な笑みを浮べたままだった。最後に別れを惜しむように爪の間をなぞり口から離し、指にふ、と息を吹きかけた。
ようやく解放された指はてらり、と唾液で濡れていた。しかしイルカは気にすることなく再びスプーンを持ち残りのアイスを食べはじめた。
「で?」
「で、て?」
「味」
「ああ」
忘れてた、と唸りながら考える。思い出せるのは強烈なまでのキャラメルの香りと味、故にカカシの感想は
「……くどい」
「ま。カカシさんならそうでしょうね」
と言って最後の一口を口に運んだ。
「つか、俺的にはイルカの指の方がよかったなあ」
「あんたどれだけ変態なんですか」
イルカの顔が引き攣る。
「えー」
「えー、じゃない」
「でも気持ち良くなかった?」
「良くない」
「ふ〜ん」
カカシはさも残念という顔をすると立ち上がり空いたカップと酎ハイを持ってキッチンに向かった。イルカはちらりと目礼しチャンネルを変えはじめた。しかしちょうどステーションブレイクだったのでどこもCMしかやっていない。とりあえずCMじゃない番組と思って国営放送に変えると海外ドラマがやっていた。明らかに吹き替え声優ミスだと思うような声と歯が浮くようなセリフと演技、これがあの話題の海外ドラマだな、と思った瞬間にチャンネルを変える。もうそろそろ何か始まってるだろうと思いチャンネルを回していると、
「ひゃッ!」
首に何か冷たいものが当てられた。
「ちょ、何すんですか!」
慌てて後ろを振り向くとカカシがイルカの首に手を当てていた。その指先は冷水に触れたかのように冷たい。
「だって指で気持ちよくなれなかったんでしょ?」
「は?」
「てことは俺、イルカにお礼できなかったてことじゃん」
「はぁ?」
どうやら先ほどの迷惑不快極まりない指舐め行為がアイスのお礼であったのだが思ったほど気に入ってもらえなかったので改めてお礼を、ということらしい。
「そーゆーことでお礼です」
「こんなお礼はいらねーよ!」
と、声を荒げ炬燵から抜け出そうとするが後ろからカカシに押さえ込まれて出られない。カカシは笑いながら髪を掻き上げ耳の中に吹き込むようにして低く囁く。
「まあまあ、まだ続きがあるから」
「だからいら……ッ!」
ただならぬ予感に何とか抜け出そうとするが、首筋から耳の後ろを柔らかい唇が這う感触に震え上がって動けない。カカシはそのまま耳朶を食み、するりするり、とやさしく髪に指を滑らせる。
「帰ってきた時から誘われてるのかと思って」
「はぁ!?」
イルカは心底心外だという顔をした。
やっぱり無自覚なんだな、と思いながらカカシは緩い愛撫を続ける。
「このうなじとか」
と言い、つつつ、と指を滑らしてゆく。
「…ッ!」
何ともいえない寒気がイルカの背を駆け抜けた。
身を捩って抵抗するが形にならない。寧ろゆかたの着崩れに拍車をかけるだけだった。少しずつ露になる肩にカカシが唇を落としてゆく。
「ふっ……ぁ!」
甘く艶の含む声が洩れる。
カカシはその甘い声を聴き悦に浸る。
そんなカカシに対するささやかな抵抗としてイルカは声を洩らさぬように口に手を当てた。
「あ。なんで口隠すんですか」
ひどいひどい、と首の付け根に噛みついた。柔らかな肌に白い歯があたる。甘噛みなので痛みよりも温かな舌と硬い歯が得も言えぬ感触をもたらす。
「歯食いしばるなら、こっち噛んでよ」
カカシはイルカの手を剥がした。そして唇に優しく指を這わし、人差指と中指を口内へ割り込ませる。
指先が舌を掻く。歯をなぞる。
舌が指を舐める。爪を噛む。
くちゅくちゅと卑猥な水音が響きはじめた。唇の端から唾液が零れ落ちる。目を閉じ悩ましげな表情で指を貪るイルカ。カカシはその艶やかな顔を斜め後ろから見て血が溜まるのを感じた。
そろり、と空いたもう一方の手をゆかたの中に忍ばせる。少し冷たい指がイルカの皮膚を滑った。
「ぁ、、」
思わず声を上げ、口から指を離す。
「ちゃんと舐めてよ」
カカシは暗い笑みを浮べて指を少し奥へ突っ込む。苦しさにイルカの眉が寄せられた。が、また指を舐めはじめた。
カカシはうっそり笑い、忍ばせた指でそろそろと乳首を撫でた。一瞬、舌が止まったが何事も無かったかのように指を舐め続けた。カカシは肩口を舐めたり吸ったりしながら胸の尖りを弄りはじめた。しこり勃った乳首をぎゅと摘む。
執拗に繰り返される胸への愛撫に先端はぴんと立ち赤く腫れ上がっている。
「も…そ、こ……ばっか」
振り返り恨みがましくカカシを見る。指を突っ込まれはしたなく唾液が零れ、苦しさと痛い快感に目を赤くし涙を流すその顔は扇情的である。
カカシは意地悪く口元を吊り上げた。
「でも好きでしょ、ここ」
と言ってぴん、と尖った先を弾いた。
「んっ!」
思わず身を目をぎゅと瞑り、過ぎる快楽に耐える。その表情がイッたときの顔に似ていてたまらず口付ける。突然の柔らかい感触にイルカは目を開けた。端整な顔が目の前にあって少し驚いたが構わず口を開ける。舌先がねぶるように歯列をなぞり、生き物のように絡み付く。ぴちゅぴちゃと陰湿な水音がする。滑らかで甘ったるい唾液を交換し唇を離すと2人の間に透明の糸が引いてこぼれた。カカシの顔が奇妙に歪む。
「…あまい」
「だって、キャラメルですから」
と言ってイルカはからからと笑った。
カカシは先ほどのアイスを反芻しながら唇を舐めるとイルカ自身に手を伸ばした。びくり、とイルカの身体が揺れる。そこは既に熱くなり堅くなっている。とろとろと先走りが漏れゆかたを濡らしていた。
「こんなに濡らして、そんなに好かった?」
低い声で耳の中に吹き込み指先で勃ち上がった陰茎をゆかたの上から軽く握ったりゆるゆると撫でる。
「ん…ぅっ」
焦れったい愛撫に腰を浮かす。もっと強い刺激が欲しくて自身に手を伸ばそうとするイルカの腕をカカシがやんわりと制した。
「だめ」
「なん、で…」
「だってイルカ、前と後ろ、両方弄ばれるの好きでしょ」
一瞬にしてイルカの頬に朱が差す。
「だから、」
と言ってイルカの尻を撫でまわした。
イルカはのろのろと腰を上げ膝立ちになり炬燵の上にうつ伏せになった。頬と肌蹴た胸に冷たい天板があたる。カカシはローションで指を濡らすとゆかたの裾から手を入れた。後孔の襞はこれから与えられる快感にひくひく痙攣している。カカシは口元を緩ませそれを宥めるかのように一本一本伸ばすように丁寧になぞる。そしてつぷり、と2本の指まとめて挿し込んだ。どくりどくりと伝わる内壁の蠢きを感じながら媚肉を掻き分け奥へと進む。
「ああ、っ」
中指が内壁を抉り、悲鳴に似た嬌声が上がる。
緩やかに3本目を咥え込む。指がばらばらに動きぐちゅぐちゅと中を犯す。指を曲げ、熱い粘膜を内側からこする。
「、ああっ……も、はやく」
涙混りに懇願する。
「もういいの?」
「いい、からっ!」
これ以上は耐えられない、とばかりにイルカは叫ぶ。片手で前を寛げると反り返るものを取り出した。じゅりと蜜音を立てて指を引き抜くと先端を擦りつけ一気に突き刺した。
「……っ!!」
息が詰まる。イルカの顔が少し歪んだ。
「…っイルカ、そんなに締めないでよ」
カカシは苦笑しながらイルカ自身に指を絡め、上下に扱いた。
「ぁン…」
萎えかけていた陰茎が力を取り戻しイルカの腰がゆらゆらと揺れる。カカシはそれを見て容赦なく奥を穿つ。イイところにあたり全身にびりびりと快感が走った。
「あ、あ、、ぁ!」
嬌声が漏れ、天板に涎の水溜りができる。
「…熱い」
熱く柔らかな媚肉が絡みつく感覚にカカシは笑った。淫らに揺れる腰にぬちゃぬちゃと激しい注挿を何度も繰返す。
イルカは肩越しにカカシの熱く乱れた呼吸音を感じ獣のようだ、と知らず口元が緩む。それを見たカカシは
「なに、余裕?」
と言って腰を押さえつけいっそう激しく注挿した。
がつがつと奥を抉る。腰を打ちつけるたびにじゅぷじゅぷ、と水音が立ち淫液が結合部が滴り落ちる。頭が溶かす快楽と聴覚を刺激する粘着質な水音、肌にかかる熱い息が思考を奪う。
助けを求めるかのように伸ばしたイルカの手にカカシの指が絡む。
「も、ダメっ……!」
「うん、いいよ」
背を反らしがくがくと腰を震わせ先端から白濁を迸らせた。瞬間、熱くうねっていた内壁がきゅと締りカカシに狂わんばかり快楽をもたらした。カカシは低い唸り声を上げると股間を押し付け熱い精液を最奥へぶち込んだ。
「はぁはぁ、はぁ」
荒い呼吸音が2人を包む。
カカシはイルカの首筋にちゅ、と吸い付いた。赤い花が広がる。1つまた1つと増えていく。イルカは背中に圧し掛かる重みに多少の煩わしさを感じるが好きにさせた。というより情事特有の倦怠感で止める気力も無い。しかし、そろそろと太腿を撫でる不埒な手にぎょっとして振り返った。
「も、むりっ!」
「何で?まだ一回しかシてないよ」
「昨日も散々シたじゃないですか!」
「そうだよ。だからもう一回」
「違ッ!だからもう、し…っン」
抗議は荒々しい口付けに封じられた。そしてそれが喘ぎ声に変わるまでそう時間はかからなかった。
* * *
イルカが目を覚ましたときには既に正午をとっくに過ぎていた。カカシは時計を見て固まるイルカにおはよー、などと清々しい笑顔で手を振っている。その顔が気に入らないのか
「お礼通り越して軽く犯罪じゃねーか」
と持っていた時計を投げつけた。
それをひょい、と避けるカカシ。
えー頑張ったのに、とかイルカもノリノリだったじゃん、などと聞き捨てなら無いことを並べていく。取り合えず俺の話を聞け、ともう1台の時計を投げつけた。
「俺は謝罪を要求します」
「謝罪?」
「はい」
俺悪い事してないけどなぁ、と思いつつ
「まあイルカからのお願いなら何でも聞きますが」
と言った瞬間イルカの目が光った。
「じゃあ今すぐバニラキャラメルブラウニーとコーヒーのクオートとバナナキャラメルタルトのパイントとショコラアマンドのパルフェと和素材とバニラ・ミルク系のパーティパックあとクッキーサンドを3つ買ってきてください」
「…えと、今すぐ?」
「はい」
「クオートて確かショップでしか買えないよね?」
「パーティパックとクッキーサンドもそうですよ」
「……まだ冷蔵庫にいっぱいアイスありますよ?」
じわりじわりとイルカの目の淵が潤む。
「カカシさんは……俺のことなんてどーでもいいんですね…」
ひどいっ!と言って手で顔を覆い、さめざめと泣きはじめた。
「わ、わかりました!買ってきますッ」
「さすがカカシさん!」
と顔を上げ、にっこり笑ってカカシの頬にキスをした。
イルカからのキスに浮かれつつ、さっきの涙は…とかう〜ん前もこんな事が…とか今日はイチャパラしたかったのに、とぶつぶつ文句を言いながら着替えはじめた。
その間にイルカはテレビをつけ、週末自分がいつも見ている番組に変えた。強烈な毒を吐く司会者と芸能リポーターがお騒がせ芸能人をばっさばっさと切ってゆく。今までプライベートを必死に隠してきたある有名芸能人夫婦が出演する映画に引っ掛けてちょろちょろと情報を漏らしているらしい。餌を見せ付けないと話題を呼べないほど落ちたのだろうか。
玄関ではカカシが知らない人が来ても開けちゃ駄目ですよ、と過保護な親のようなことを叫んでいた。おかげで肝心の部分が聞こえなかった。結局その夫婦は誰なんだよ。
腹を立てたイルカはいってらっしゃい、の代わりに
「シャルドネ&ラズベリーのシェイクが飲みたいですー」
と叫んだ。