現状を打破する事が目的であって先に用はないのだ


Ave imperator, morituri te salutant.(Extra Chapter)
 4.It's little that the difference between Cupid and Familiar.


私が五代目火影として就任して1年が経つ。
木の葉の景色も住む人々の性格は変らずおおらかだ。実にいいことである。
里も順調に復興しつつある。非常に喜ばしいことだ。
少しずつ悩みの種が解消していくおかげで私は堂々と博打ができる!
だが、気になることはいくつもあるのだ。
それは里にとって大きな問題には(恐らく)到底ならないことなのだが私の精神衛生上非常に悪い。もう見ているこっちは歯痒くてじれったくて思わずその辺にある備品を粉砕してしまう。そうすると私の優秀な部下がたちまち鬼と化して予定にない仕事を押し付ける。余計な仕事とその気になることでストレスが溜まる。ストレスが溜まるので更に備品を壊す。するとまた部下が……とエンドレスで続き、このままでは私の精神は磨り減るどころか焼き切れて燃えカスすら残らなくなってしまう!
そうした事態を未然に防ぐため私は自らの精神を安定させるためパチンコに走るのである。
どてらを着込みヒゲめがねで完璧な変装した私の隣に背中に丸めた新聞紙を背負ったスケバンセーラー姿の女が座った。
「…五代目」
「う!私は火影ではない。銀玉に愛をそそぐ一木の葉民だ」
「…綱手さま」
女の哀れな視線を感じるがそんなものはここに来るまでに散々頂戴したので最早どうってことない。
「……」
「折り入って相談が」
その声があまりにも真剣なので思わず隣をみると、女はクレナイだった。
「なんだクレナイか…」
「なんだ、てなんですか」
「いや他意はない気にするな」
「で、相談なんですが…」
「お前直球だな」
「え、ナックルボールが良かったですか」
「いえストレートでよろしく」
「で、話を進めますと」
「はいはい」
「はたけカカシとうみのイルカのことなんです」
思わず手を離してしまう。ああ、しまった!せっかくのチャンスがッ!!
声にならぬ悲鳴を上げる私を無視してクレナイは続ける。
「何とかなりませんか、あの2人。三代目がご存命のときからあの調子で、もう見てるこっちはやり切れない苛々でいい加減どうにかなりそうなんです!」
「お前もやっぱりそう思うか!」
私は喜びに打ちひしがれた。あの2人のわけのわからん関係に悩む人間は私1人ではなかったのだ!おまけにクレナイはその悩みと私以上の期間を戦ってきたのだ。
「はい!綱手さまになら私のこの思いが通じるのではないかと思いお話したのですが…よかったッ!」
「そうか、お前は長い間孤独にこの冷戦に身をやつしていたのだな」
「綱手さまッ……!!」
「まかせろ!女の敵であるストレスを増加させる諸悪の根源は根絶やしにせねばならない!」
「はい!」
「クレナイ、私たちの安寧を勝ち取るための戦いの火蓋は今切って落とされたのだ!」
クソ長い修飾句を一度も噛まずに高らかに宣言する私の隣でクレナイは連チャンに涙していた。


しかし戦いは膠着状態、どころか始まってもいなかった。
だがついに待ちに待ったチャンスがやってきた!
クレナイ曰くイルカはカカシに何か言われて(恐らく告白された)精神的に動揺している、とのこと。何故解るのかと聞くと昔起きた事件とその後のイルカの恋愛歴をかなり詳しく聞かされた。そんなことがあったのか、と驚きつつ火影の特権で調べると確かに精神科への通院記録とその時のカルテが見つかった。
なかなか癖のあるやつらだ、と些か感心はするが始まった戦いは止められない。カカシのいない今イルカをどのように刺激すれば上手く事が運ぶのか唸っているとシズネに仕事しろ、と叱られた。
悔しさとこいつの恋愛感を探るつもりで
「ちっとも進まない恋愛を進めるにはどうしたらいいと思う」
と聞くと
「そんなものちょっと危険な目に遭えば意識するんじゃないんですか」
となんだか妙案な答えが返ってきた。
これをクレナイに伝えると、
「ナルホド。要するに非日常的環境におけばいいわけですね」
と簡潔にまとめられた。
「う〜ん、非日常ねぇ」
「…カカシは今任務に出ているんですよね」
「そうだ」
忍の任務状況には守秘義務が布かれているがまあこれぐらい言っても大丈夫だろう。
「じゃあ、2人を逆にしてみたらどうでしょうか」
「と言うと?」
「カカシを里に、イルカを外におくのです」
「ああ、なるほどね」
普段カカシはイルカが里にいるものだと思っている。それなのに自分が帰ってきても里にはイルカがいない。しかもなにやら任務(ちょっと高ランクにしてやろう)についてるらしいとの話しを聞けば……。
「お前は自分の恋人が任務についてるだけで不安になるか?」
「いいえ、まったく」
「だよな」
この乙女心にはまったく反応しない作戦で上手くいくのだろうか。
一番重要なことはカカシがイルカが任務に出たという事だけで動き出すかどうかだ。
「ですが、男心は女には解らないものですし…」
「そうだな」
そもそも私にはあの2人の関係自体が解らないのだからやつらの思考回路なんてこれっぽっちも気にする必要はないのだ!

イルカの任務履歴を片手にカカシが帰還する辺りに出発する短期間でちょっろっと高ランクの依頼を探す。それを見ていたシズネがようやく真面目に任務割当なさるようになったんですね!と涙を流していた。
ふふふ、これぐらいないくらでもやってやるよ、と私は心の中で叫んだ。(実際に声に出さないところが重要だ)
「あ。そう言えばこの任務、微妙で担当者が決まってなかったんだよな」
私は一枚の任務書を手にしながら言った。
「ああそれですね、内容と場所が合致してませんからね」
シズネは困った顔をしながら茶を渡してくれた。
私は受け取った茶を飲みながら任務内容を確認する。ん、まてよ。この森は…。慌ててイルカの任務履歴を読み返すと、あった。
こいつの任務分野は多岐に渡るからややこしくて仕方がなかったんだよ。
ふんふんふん、という事はこいつにとってはここは庭みたいなもんだろ。
「シズネ、決まったよ」
「よかったですね〜で誰にしたんですか?」
「うみのイルカだ」
「え、うみの中忍ですか?」
「何だ。お前知ってるのか」
「綱手さまがお出かけの際、私代わりに受付に座ってますから」
瞬間的に執務室が絶対零度に凍りついた。
「そ、そうか」
「はい。でも大丈夫なんですか」
「やつはああみえて色々とやってるよ」
笑ってイルカの任務履歴を渡してやるとシズネは人は見かけに因らないんですねぇ、と感心していた。
こんこん、と軽くノック音がした後一人の男が入ってきた。
「失礼します。五代目、追加書類です」
と言って見たくもないものを持ってきた。
「わかった、そこに置きな」
そう言えばこいつは確かアカデミー教官だったよな。
「あと、うみのイルカにここに来るように伝えな」
「はい、わかりました」


その後すぐにイルカが来た。おお、さすが中間管理職!みごとな伝達連携だ。
任務内容を説明してるあいだ様子を観察したが、クレナイが言うほど精神面で大きな乱れはないように感じた。日が経ったてこともあるだろうけど私の前だからスイッチが切り替わってるんだろう。これだけ切り替えが早いなら任務に支障はないな。
次の日イルカは出発した。後日カカシが帰還し私のところに報告しに来たとこまでは予定通りだった。
あの情報が入るまでは
潜入した忍から届いた式にはターゲットの特定指定文書が機密文書に格上げされたあげく盗んだのがばれた、と書いてあった。
おいおい、何てことしてくれたんだ!今から里を出発したんじゃ間に合わない。いや、あそこの近くには空間転移術があったな。あれを利用すればなんとか間に合うか…とすればあとは足の速い者か。
足の速い忍を思い浮かべるがどれも任務中だ。シズネに足の速い者を連れて来い、と命令すると目の前のカカシが俺じゃダメなのかと言いはじめた。
おいおい、ダメもクソもお前今Aランクから帰ってきたばかりじゃないか……いや、まてよ。もしかしたらこれは逆にチャンスなんじゃ…
情に篤いこいつのことだ。どこの誰かは知らんが仲間の危機には敏感なんだろう。もしその危機がイルカだと解れば、まさしく非日常!
つか、非日常どころかホントに危険事態だ!
渡りに船だか当たって砕けろか知らんが勝利の女神が私に、この私に!振り向こうとしてるんだ。
こうなったら首根っこ引っ掴んでその顔きっちり拝ませてもらおうじゃないか!!


転送予定地を伝えるとそこは古いからこちらで術を補強しないとどこに飛ばされるかわからん、と術者に言われた。てめぇら普段何してんだ!と突っ込みたくなる気持ちを抑えて早くしろ、と蹴り倒してやった。
1時間ほど待てとカカシに伝えるとこれ以上ないような不快な顔しやがった。こいつ絶対術者に嫌味言いに行くぞ。
あとは医療忍者か…間に合えばそんなに被害はないはずだが万が一の事もあるから最低2人だな。ベテラン1人と実戦経験の少ないやつ1人の組合せでいいだろう。最強に機嫌の悪い里でもトップスピードを誇る上忍との任務はキツイかもしれんが良い経験だ。許せ。
その後入ってきた情報によると追跡部隊所属の上忍2人で1人はトラップの専門、もう1人は幻術の専門らしい。幻術ね…下手にかからなければいいんだけど。
しかし事態は私の予想を遥かに裏切る結果になった。
転送されて戻ってきたのは血濡れのイルカだった。
意識レベル3、呼吸は不規則、傷口は荒く既にかなりの量を失血してる、おまけに妙な術の欠片が感じられる。
一体この子は1人でどこまでやったのかね。
でも里に帰ってきたんだ、絶対に助けてやるよ!

2日後、カカシが敵忍の詳細とトラップの分布図を持って帰ってきた。
またそのまま報告にきたようだ、ほんと真面目だよ。転送装置は使わなかったのか、と聞くと術式が歪んで使いものになりませんでした、と返された。
医療班から簡単な状況説明は受けていたがやはり現場を調査した報告には敵わない。しかし罠専門を首ちょんぱにして幻術専門を火あぶりか…えげつなことやるなぁ、あいつも。
感心(いや寒心かもしれない)しながらカカシに1週間の休暇を命じるとイルカの様子を聞いてきた。
よっしゃ、来たーッ!
落ち着け、私!
笑うな、綱手!
と、自分に言い聞かせなるべく的確に状況を伝えてやった。
するとカカシは心底安心した、という表情を浮べた。
こ、こいつにこんな顔をさせるなんて!これはもしかしたら予想以上の結果が得られるかもしれん、と思いながらイルカの病室番号を控えた紙を渡した。
しかしカカシの反応は鈍い。知り合いだろ、とけしかけても曖昧な返事しか返ってこない。
あんな顔しておいて無自覚なわけがないだろ!そんなやつが上忍だなんて里の恥だ!と思いながらはっきりしない男だねぇ、とぼやいてやった。
カカシが出て行った後一息ついてるとシズネに執務室は禁煙です!と一喝された。
しぶしぶ喫煙所で吸ってると窓から病院に向かうカカシの姿が見えた。


次の日、検診を兼ねてイルカの元に行くと思ったより元気がない。
昨日カカシが来たはずだから花ぐらい飛んでてもいいと思うんだが。
「イルカ」
「ご、五代目!」
「元気そうだね」
「はい。おかげ様で」
「今回の事は全てこちらのミスだ。悪かったね」
これは事実だ。もっと情報収集を徹底していれば防げたかもしれないし、装備に関しても何か言及すればこれだけの怪我をさせなかったかもしれない。
「いえ、自分の力が到らなかっただけです!五代目が気になさる必要はありません」
おお、実に謙虚な姿勢だね。こんないい子があんな結果を作るんだから世の中ってのは解らないねぇ
「今回の敵の幻術だが…幻術と言うよりは幻覚に近いものだったみたいだね」
「幻覚ですか…」
「幻術は術者が見せたい幻を外部からの間接的に刺激を通じて見せるから解術すればその影響はまったく残らない。が、幻覚は術者の攻撃で脳神経が直接刺激されて幻を見せられるから解術しても暫く幻のようなものを見るだろうし、被術者の精神によってはその後も影響が残る可能性が高い」
「俺の精神状態によっては幻覚を見ると?」
「ああ。だが見たところ大丈夫そうだね」
「…はい、大丈夫です、たぶん」
「ま、脳なんて元々よく解ってない器官だし幻覚自体は誰でも見ている」
「視覚の盲点の話しですか?」
「そうだ」
「しかし先ほど五代目が仰った幻覚は…」
「もちろん幻聴や幻視など異常な感覚のことさ。だから否、だからという繋げ方はおかしいか。まあ何だね、もしお前が幻覚を見ているようならそれはお前が一番気になってることなのかもしれない、て言いたかっただけさ」
「俺が一番気になってること、ですか?」
「まあ、あくまでも仮定の話だがな。だがそれが解決されれば幻覚は恐らく見なくなるだろうね」
解決により精神が安定するはずだからね、と言うとイルカは納得したかのような顔で頷いた。
う〜ん、評価としてはあと一歩というところか。カカシの奴、昨日ここに来て何話したんだ?何にも変ってないじゃないか!
「きちんと飯食って寝て笑えるなら幻覚も何もないよ!」
と言ってやるとそうですね、と小さく笑った。
「言い忘れてたけど明日抜糸して退院だよ、復帰したら山のような仕事が待ってるからね」
覚悟して出てくるんだよ、と言うと目を丸くさせて焦りだした。これだけ元気なら幻覚の事は気にする必要はないな。
それにまったく進まないお前らが悪いんだよ。これぐらいは当然じゃないか。



* * *

「綱手さま」
「ん、なんだ?」
「うみの中忍、無事に抜糸終了し退院したそうです」
「そうか、なら良かった」
「ホントよかったですよ〜うみの中忍がいないと受付の書類の流れが悪くなるんですから」
ここのところ受付からの書類が少ないと思ったらただ単に滞ってるだけか…ん、てことはこの後まとめて来るのか!??ひぃ!!
これから来る大量の書類を想像してげんなりしていると軽いノック音がした。
「失礼します」
と言って入ってきたのはクレナイだった。
「報告します。例の懸案ですが無事に収束に向かいそうです」
「本当か!!?」
思わず立ち上がってしまった。隣でシズネとトントンが疑問符を浮べてこちらを見ている。
「はい、先ほどターゲットに接触しましたところ確かな手ごたえがありました」
クレナイは満面に自信のあふれる笑みを浮べていた。
私は感極まり涙を浮べながら
無礼講だ!
私のおごりだ!!
今日は飲むぞぉ!!!
と拳を握り腹の底から叫んだ。


私たちの戦いは終わった。
例え女神の笑みがニヒルなものであったとしても私たちは確かに彼女の笑みを掴んだのだ。



……at a feast of triumph

「これで動かなかったらどうしましょう」
「これで動かなかったら?そうだね…イルカを長期任務にでもやろうかね」
「イルカをですか?」
「ああ。今回の事であいつがかなり優秀、て解ったしね」
というか片方がいなくなれば見なくて済むからね、と言うとクレナイはキレイな顔で笑った。